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 私は「黒澤明さん」というより「氏」だろう。(敬称略)」をずっと避け続けてきた。それは「黒澤映画を見る。」ということを避けてきたという意味だ。お気軽に、さらっと、さわやかに鑑賞するのと趣が違うからだ。その内容は、広く、深く、重く、考えさせられる作品ばかりだ。宗教や哲学、芸術(=映像美)の世界までおよんでいると思う。

 黒澤作品のすごいところは、何年、何十年経過しても、まったく色褪せないことだ。世界の(名立たる)映画監督に多大な影響をあたえ、なぜ「世界のクロサワ」とよばれているのか、この作品「生きる」一本をみてもわかると思う。私はこの作品を見て、はじめて「黒澤作品」と向き合ったといえる。
生きる<普及版>生きる<普及版>
(2007/12/07)
志村喬;小田切みき;小堀誠;金子信雄;千秋実

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 最初のシーン「志村喬 - 渡邊勘治役」(市役所市民課長)の仕事の映像を見せて「この男は死んでいるのである。」という最初のナレーションから、この作品を見透かし見抜いてしまった。(だから、黒澤作品っていやなんだよっー。)

 私には、この人(=渡邊勘治)のおかれている状況、あるいは状態が良くわかるからだ。何の疑問を持たず、ただ与えられた仕事を毎日毎日、永遠と同じ事を繰り返している。まるでロボットのようだ。そう、だから「死んでいるのである。」

 「つまんねー。」といいながら仕事をしている人は、全仕事人口の半分以上いるのではないか。「毎日毎日繰りかえされる同じ事に一体何の意味があるのだろう?」と。製造業、ラインに入って仕事をする人は特に感じていると思う。(私もちょっと前は、そういう仕事だったから。)

 「仕事が楽しい、仕事が面白い。」あるいは「自分が何をしている時が一番楽しいか。」を見つけられた人は幸せだと思う。(私自身それはまだない。いや一生見つけられないで人生終わるかもしれない。)

 自分が胃ガンで余命が少ないことを知った後の、この男の行動は滑稽にさえ思える。部下の小田切とよ、との出会い、自分の職場ではじめて公園建設の仕事にやる気を見出し、奮闘する姿を見ていると憐れにさえ感じる。

 「俺は一体今まで何をしてきたのか、何のための人生だったのか。」それはブランコにのって(主人公が口ずさむ歌「ゴンドラの唄」)いるシーンが象徴的である。

 この男の物語とは別に、お客さんが相談しに来たにもかかわらず「○○課に行って下さい。」と、何回もたらいまわしにされるお役所仕事に対しての皮肉も入っている。

 後半は一変して、渡邊勘治が死んだ後の葬儀のシーンではじまる。職場の同僚達との会話は考えさせられる事ばかりだ。中高年、あるいは定年すぎたあたりの人が、このシーンだけ見ても、ふと自分自身を振り返ってみる、きっかけになると思う。

 また最後の数秒のシーンがいい。一人の職場の同僚の男が、上から公園の緑地(=渡辺勘治が、最期にやり遂げた仕事。)を見届けて終わるシーンは印象深い。

 この映画、実は今の若者が見たほうがいいのでは?と思う。特に、ニート、引き篭もり、アパシー(=無気力、無関心、無感動の三無主義)の人達。この映画を見て「何も感じない。」「なんとも思わない。」としたら、この映画の主人公と同じく「生きながら死んでいる。」のである。

 人間の心の風景、心情を、どんな映像にするかを見事に表現できる。それが一流の監督(あるいは演出家)といえる。この「黒澤明」もその一人だろう。「黒澤明」を一言で、たとえるなら、「人間とはなにか?」を、映画を通して広く深く、追究した人物といえないか。もう一人同じような人物がいる。漫画を通してなら、「手塚治虫」ではないだろうか。
2007/10/13 12:27|映画TB:0CM:0

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